リビングにかけてあるカレンダーをミサトは見ていた。そして
「もう秋ね〜」
セカンドインパクトの影響で四季はなくなっているので、この表現は不適切である。しかし以前は四季があった。ミサトはその頃を思い出しているのだろうか。
「秋と言えば、芸術の秋、運動の秋、食欲の秋、そしてビ〜ルの秋」
・・・・・
「ミサトさん、最後は違いますよ」
テレビを見ていたシンジはつっこんだ。
「そうかしら?この時期は妙にビ〜ルが美味しいのよね」
「一年中の間違いじゃないですか?」
「ん〜シンちゃんの、いけず〜〜」
ツンツン
シンジの頬をつつく。
「わあ!やめてくださいよ」
「ふふ、こう晴れていると運動したくなるわね」
窓から太陽の光がリビングを照らす。
「そうですね」
「そうだ!ドライブに行きましょう」
Driver's High
「イヤです」
即答わずか0.00000001秒。
「え〜?こんなに晴れた日曜日はドライブよ」
「一人で行ってください」
普通の人ならば、こんな天気が良い日はドライブに行きたいものだがシンジは違った。それはドライバーに問題がある。
「さわやかな風を浴びましょうよ」
「ココで浴びます」
ドライバーはミサト、美人の運転なら男性は大喜びだが欠点があった。
「どうしてよ〜」
「ミサトさんの運転が荒いんです」
そう運転が酷かった。腕は超一級だが、いかんせんスピード狂。ストレートでもカーブでもアクセル全開、乗った事のあるシンジの感想は・・・・
(お花畑が見えたよ・・・・・)
・・・・・そのままお花畑に住み着くところであった。
「安全運転するから〜」
「イヤです」
・・・・
・・・・
・・・・
無言の空気が流れる。
「そお?行かないんだったら、これどうしようかな?」
ミサトは懐から何かを取りだし、ピラピラとシンジの前にかざした。
「何ですか?行きま!!!!ど、どうしてこれを?」
目を見開き奪い取ろうとするが、サッとかわされる。
「たまには姉らしく掃除をしていたらね。見つけちゃったのよ」
「どうして掃除するんですか!」
「まったくシンちゃんも男の子ねえ」
ミサトがヒラヒラさせている物体は写真であった。それも・・・・
「良く撮れているわね。水着姿のアスカ」
「わあ〜わあ〜」
大声でミサトの声を遮る。
写真は体育の時の水着のアスカであった。ケンスケから買ったものである。
「これどうしようかな?」
「か、返してくださいよ〜〜」
情けない声を上げるシンジ、ミサトはにやけている。
「持ち主に返さないとね〜〜」
「は、早く〜〜〜」
「こういう場合の持ち主は写真に写っている人物・・・アスカね」
「!」
シンジは頭に浮かんだ。もし写真がアスカの手に渡れば・・・・・殺される。
「わ、わかりましたよ。行きますよドライブ」
ニコ!
「そうこなくっちゃ、はい!」
満面の笑みを浮かべ、写真を返す。
「じゃあ車を出してくるから着替えてきてね」
「はい・・・・・」
力無く答えるシンジ。
生気のない状態で着替え終え玄関に向かう。
「・・・・アスカに書置きしておかないと」
アスカは朝からヒカリと遊びにいっているので、悪夢を逃れられた。
かきかきかき。
「ミサトさんと・・・ドライブに・・・・行って・・・き・・・ま・・・す・・・・うっうう。無事に・・・帰って来れ・・・たら・・・・」
涙が流れ文字を濁らす。書置きというより遺書に近い。
ツンツン
「?」
シンジの背中を何かが突ついているのに気づく。振り返ってみると。
「ペンペン・・・」
「クエクエ〜」
ペンペンの声は何か悲しそう。
「心配してくれるのかい?」
「クエ〜〜」
うなずく。
「・・ペンペン・・・もし僕が帰って来れなかったら・・・・アスカにご飯を作ってもらうんだよ」
「クエ〜」
ペンペンは『そんな事言うなよ!』という瞳でシンジを見つめた。
「ペンペン!」
「クエ!」
抱き合う一人と一匹、今日ほど熱い友情ができたことはないだろう。
「・・・それじゃあ・・・行ってくるよ・・・・」
「クエ〜〜〜・・・」
涙を流すペンペンを残し家を出た。
マンション前にはすでにスタンバイができている。
「・・・・」
シンジは無言で車を見つめた。ルノー・アルピーヌ、名車でファンを酔わせる一台。だがここでは地獄への特急便におもえた。
「・・・・」
そして顔を上げ太陽を見つめた。
(・・・・これが最後の光か・・・・)
「ボケ〜と立ってないで乗った乗った」
「うわっ」
ミサトはシンジの手を取り助手席に乗せた。シンジはこの世の余韻に浸る事ができなかった。
「さあて行くわよ〜〜」
「どこに行くんですか?」
「そうね〜〜気の向くままね」
「・・・・」
陽気なミサト、暗いシンジ。そしてエンジンに生命が宿る。
ドゴゴゴゴオオオオオン!!!
アクセルを踏み調子を確かめる。
「OK、OK!それじゃあ行くわよん!」
ドゴゴゴゴゴ!!!!
「うわっ!」
いきなりアクセル全開、シンジはシートに押しつけられる。そのまま爆音をあげてマンションを後にした。
「クエ〜〜」
マンションではベランダからペンペンが涙を流してシンジの無事を祈った。
ドオオオオオン!
「うわっ」
ギュルギュルギュル!!
「ぐええええ!」
キュキュキュ!!
「あぎゃっ!」
加速、ドリフト、ブレーキと事あるごとにシンジは体を揺らし悲鳴を上げる。
「もっもうイヤだ〜〜〜〜!!」
それが二時間は続いた。絶叫マシン以上の恐怖、常人ならもはや気絶するだろう。気絶したほうが楽なのであるが、シンジはEVAの操縦で絶叫マシン以上の、衝撃を受けているので免疫がつき気絶できない。気絶できない体に自分を呪った。
「はあはあはあ・・・」
「はいジュ〜スよ」
「あ、ありがとうございます・・・」
とあるパーキングエリアで休憩。ジュースを受け取ると腰を下ろした。
「ゴクゴク、息を切らして座っていただけでしょ。ゴクゴク」
「普通の車に乗るのと、ミサトさんの車に乗るの・・・・!」
喋りながらミサトを見ると・・・
「な、何飲んでいるんですか!」
「見てわからないの〜?」
「わからないって、ビ〜ルじゃないですか!」
そう飲んでいるのはビール、少し顔が赤い。
「運転しているんですよ!」
「そうよ〜」
「飲酒運転になるじゃないですか!」
「これくらいじゃ違反にならないわよ。違反は五本目からよん」
「・・・・」
完全なウソである。
(・・・・アスカ、ペンペンもう会えないかもしれない)
青空を見上げ家族を思い浮かべると涙を流した。
「さあて、元気がついたところで行きましょうか!」
「・・・・はい」
言葉に元気無く答える。
「ミ、ミサトさん、アルコ〜ルが入っているんですから安全運転してくださいね」
「わかっているって」
ドゴゴゴゴゴ!!
だがエンジンは爆音をあげている。
(・・・・)
シンジは呆れた。というより死を覚悟した。
「いっくわよ!」
「ひ、ひい〜〜〜〜・・・・あれ?」
掛け声とは裏腹にスピードは先ほどよりでていない。しかし100km/hはでている。スピードに慣れると遅く感じる。
(よかった〜約束を守ってくれるなんて、夕食はビ〜ル一本サ〜ビスしようかな)
こんなことでサービスされるミサト・・・・仮にも三佐である。
「シンちゃん」
「はい何ですか?」
「そこにあるスイッチを押してくれない」
「スイッチ?これですか」
カーステレオの下にスイッチが並んでいる。
「そっ右端を押してね」
「はい」
カチ
シンジはためらいも無くスイッチを押した。
ドオオオオオオオオン!!!
今までで最大のエンジン音が耳を貫いた。
「な、何ですか?」
「ニトロよ」
「ニトロですか・・・ニトロ!?」
「そっ限界に兆戦よ」
ドシュウウウウウウウウ!!!!
「イ、イヤアアアアアアアアアア!!!!・・・・・・・・・・・ ・・ ・・・・・」
シンジの叫び声が聞かれなくなったとき音速を超えた。
ペチペチ、ペチペチ
「・・・・・・う、ううん」
ペチペチペチ
「う、う〜〜〜ん、はっここは?」
「クエ」
頬の感触に気がつくと目の前にペンペンがいた。
「ペ、ペンペン!」
そして自分の体をさわり生存を確かめる。
「生きている、僕は生きているんだ」
「クエ〜」
「ペンペン!」
ガシッ!
抱き合う一人と一匹、この友情は誰にも壊す事はできない。
「ようやく起きたの」
「ミ、ミサトさん」
ビ〜ルを持って座るミサト、すでにラフな格好である。戻ってきて時間は経っていたようである。
「もう途中で寝ちゃうんだから、寝不足なの?」
「「・・・・・」」
それは『違う!』とシンジとペンペンはツッコミたかった。
「運んでくれたんですね」
「そうよ。シンちゃんも重いのね。流石は男の子」
「す、すいませんでした」
「いいのよ、眠らないように、夜更ししたらダメよん」
「は、ははは」
ミサトはわかってないようである。
「寝ているシンちゃんを見たペンペンは泣いちゃうしどうしたのかしらね」
「ペンペン・・・」
ペンペンの瞳は真っ赤である。
「ありがとう・・・無事に生きているよ」
「クエ」
また抱き合う一人と一匹、人種の壁を超えた。
「それじゃあご飯の用意をしますね」
時計は夕方を過ぎている。もうすぐしたらアスカも帰ってくるであろう。
「シンちゃん」
「はい何ですか?」
「来週も行きましょうね」
「!」
言葉のN2爆弾がシンジの耳を直撃。
グラッ・・・・バタンッ!
「キャ〜〜!シンちゃんどうしたの?」
「クエエエエ!!」
シンジは意識を失いその場に倒れるのであった。
う〜〜〜ん、シンジ君最後も気絶しましたね。当然かな(^^)
文庫本の「よろしくメカドック」からニトロが浮かびました。ニトロにミサトさん。スピード狂にピッタリ!
以前SSの車物で「HEAVENS'S DRIVE 1〜3」を描きました。あの後曲を聴いて描こうとおもっていたんですが、アイデアが出ない・・・そして本を読んでいたらニトロ=ミサトさん=スピード狂=シンジ君犠牲=合掌、となったわけです。
ちなみにアスカ、レイファンの方々には申し訳ないですが二人の続編はありません<_>
ゼロヨンも考えましたが助手席に乗りませんしね。
でもアイデアが浮かべが描きたいと思っています。期待しないでくださいね(^^;)
こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。
NEON GENESIS: EVANGELION Driver's High